誤訳の定着しそうな現場を見た――「破壊の天使」について
昨日、Twitterでこんな記事が流れているのを見た。
いわゆる「まとめ」サイトはRTはしないことに決めているのだけど、ついつい便利なので見てしまう。キノコは小さい頃に図書室のキノコ図鑑を端から端まで読んだくらいには好きなので、クリックしてみたのであった。
曰く、ヒトヨタケ(名前だけ知ってた)の英名が「インクキャップ」で、異名は「破壊の天使」だとか。キノコって不思議なやつ多いよね。キヌガサタケとか好き。
いわゆる「競技クイズ」「早押しクイズ」をやっている僕は、ここであることを思い出します。ドクツルタケというキノコの異名は、「死の天使」。
「破壊の天使」という異名を持つキノコはヒトヨタケですが、「死の天使」という異名を持つキノコは何でしょう?
みたいな問題が作れそうな気がします。もう少し詳しく調べてみましょう。
Google先生に「ドクツルタケ」について聞いてみる。
1番上に出てきたのはWikipedia。
ふむふむ……
欧米では「死の天使」(Destroying Angel) という異名をもち、
ん?
>Destroying Angel
……これって、「破壊の天使」じゃないの?デストローイって破壊でしょ?
真実をねじ曲げたのはど こ の ど い つ だ。こうなったら突き止めてやる。
「オタクニュース」にソースとして貼られていたライブドアニュースのリンクをクリック。
ライブドアニュースにソースとして貼られていた「らばQ」というサイトのリンクをクリック。
「らばQ」にソースとして貼られていた海外掲示板のリンクをクリック。
たどり着いたのが、ここ。
The Inky Cap Mushroom is as interesting as it sounds : pics
3リンク辿らなきゃいけない時点で、日本のネットの仕組みがおかしい気がする。インターネットとはそういうものだ、と言われてしまえばそれまでだけれど。
英語をがんばって読む。
Here's a mushroom that will kill you though, and it looks quite innocuous. It's referred to as the destroying angel for this reason:
http://www.pharmanatur.com/Mycologie/Amanita%20virosa%2010.jpg
うん。これがドクツルタケについて書いてるところだね(2レス目)。
>destroying angel
次は「らばQ」を見る。
ヒトヨタケは食べられるキノコだが、アルコールと一緒に食べると死にたくなるらしい。実際に食べると死ぬキノコには以下のものがあるが、見た目は無害だ。それゆえに「破壊するエンジェル」と呼ばれている。
これ、上で書いたレスを単純に日本語訳しただけっぽい。画像が抜けてるからわかりづらくなってるけど、この段階では
ヒトヨタケ≠「実際に食べると死ぬキノコ」=「破壊するエンジェル」
となっている。
さて、ライブドアニュースは、と。
見出しでアウトだった。
『異名は「破壊の天使」』って……担当者、日本語読めないかインパクトだけで選んで読み流したでしょ。
下の方に書いてあるレスの日本語訳版はらばQの状態のままなので、この見出しを書いたライブドアニュースが一番責任が重い。
今回に限って言えば、「オタクニュース」はライブドアニュースの記事を拡散しただけなので、そこまで責任は重くないと思う。逆に、最初に英語から日本語にした「らばQ」の時点で"destroying angel"を「破壊するエンジェル」ではなく「死の天使」と訳し、ちゃんと「ドクツルタケ」という名前も併記しておけばこのような事態を招くことにはならなかったので、「らばQ」の方にも反省していただきたいと思った。
<「破壊の天使」について>
左の「ドクツルタケ」の通称が「destroying angel」で、日本語では「死の天使」と呼ばれています。
右の「ヒトヨタケ」は「inky cap」。「破壊の天使」という二つ名はありません。ご注意を。 pic.twitter.com/abDpuHhBLh
— かいだこ (@kaidako) 2015, 1月 9
こんなツイートもしたけど、1ふぁぼしかもらえなかった。泣きたい。
さらに言えば、同じ"destroying angel"でも「死の天使」「破壊のエンジェル」と2通りに訳されるだけで、日本語では異なる単語に見えてしまうから不思議。「トウキョウトガリネズミ」の例といい、誤訳っていうのはこうやて生まれるのね、と思った。
まとめ:ニュースサイトの見出しや、まとめサイトは鵜呑みにせず、必ず自分で元サイトまで辿るなどして、信頼のおける情報を入手しよう。